「イヌイットの壁かけ」岩崎昌子

1970年、岩崎さんがカナダに住むことになり、ある日、オタワの街角の画廊で1枚の「壁かけ」に出会う。スコットランドダッフルと呼ばれる厚い布地に上に、いろんな形に切り抜いたフェルトを一針一針、丁寧に縫い上げた布絵。それは、イヌイットの人々が作ったものだった。氷原の上での暮らし、狩りの様子などが色彩鮮やかに描かれている。どれも、手作りで、世界で1枚だけのものだ。岩崎さんは、以来30年に渡り収集を続け、100点以上の作品を集めた。本書には、119枚の「壁かけ」が収められている。なんというかリアルな生活の記録になっているのだ。「アザラシの解体」「カリブーの皮を枠に張り、伸ばす様(狩猟シーズンには、どこの家でも見られる光景らしい)」「防寒着(パーカー)を作る様子」、また自然描写も豊かだ。今はもう、イグルーに住むイヌイットはいない。エアコンの利いた住宅に住み、スノーモービルに乗る。きっと彼らは、「壁かけ」にかつての暮らしを描くことによって「伝統」を紡いでいるのだと思う。