「沢田マンション物語」 古庄 弘枝

「セルフビルド」の先駆者として、この本を手に取ったのだが、読み進めるうちに、そんなことはどうでもよくなるほど、大きなドラマがあった。「沢田マンション」は、沢田嘉農さんと妻の裕江さんのたった二人で築いたマンションだ。破天荒な嘉農さんの人生も豪快だが、裕江さんの人生は、それ以上に波乱万丈だ。裕江さん一家は、父親が脳卒中で倒れ、半身不随になり働けなくなったため、家を売り払い、当時、嘉農さんの経営するアパートの1室を借りていた。父親は、ずっと入院したままで、経済的に困窮した母親は、下の娘だけを連れて実家に戻った。裕江さんは、嘉農さんに預けられたのだ。当時、嘉農さん32歳、裕江さん13歳。実質的な結婚生活が始まった。嘉農さんの製材の仕事を手伝い、しだいに中学校には通わなくなった。そして、15歳で出産。その子を背負いながら仕事を続けた。その頃から、住宅建設の仕事も始め、その後、妊娠中も重労働を続けたため2度の流産を経験するが、27歳までに3女を授かる。出産後も1週間で仕事復帰するパワフルな女性なのだ。すごいのは、20歳に次女を出産した後に、6坪2階建ての家を、自分一人で建てたことだ。嘉農さんと一緒に、大工、左官、配管の仕事をこなしてきたので、家作りに関する知識と技術は身についていた。彼女いわく、「産休中に建てた家」だそうだ。彼女の人生が詰まっている家だ。こういう人だから、「沢田マンション」ができたのだなぁと思った。